結局、人間は常に何かを信仰している 。小説『イン・ザ・メガチャーチ』の感想
最近ちょっとオーディブルにハマっている。
この週末、『イン・ザ・メガチャーチ』を完走した。
一見、推し活がテーマだけど、読んでいくにつれて、それは入り口でしかなく、真髄のテーマは昔から続く人間社会の光と闇を描いていて、心えぐられる超越おもしろい小説だった。
正直、感想はまとまっていないけど、書いていこう!
*ネタバレ含みます
ポッドキャスト版はこちら。
本記事は、ポッドキャストの内容を再編集した文章のため、若干内容異なります。
どんな話?
『イン・ザ・メガチャーチ』は、推し活というものを、主に3人の人物の視点から描かれている小説。
久保田慶彦、47歳。
レコード会社のバックオフィスで勤務。離婚しており、妻と娘とは別居。誰かとまともに話すのは、娘との月1のビデオ電話のみ。会社でも後輩からも見下されているが、とあるきっかけで、アイドルプロジェクトの運営側に関わっていくことになる。
武藤澄香、19歳。
大学生で久保田の娘。もともとは推し活に対して少し冷めた目線を持っていたが、人間関係や恋愛がうまくいかない中で、あるアイドルに惹かれて、推し活の沼にハマっていく。
隅川絢子、35歳。
契約社員。推し俳優にお金と時間を注ぐのが生きがいだったが、その俳優が自ら命を絶つという出来事によって、推し活から陰謀論を唱える団体で別の活動へとのめり込んでいく。
推し活というものに対して、それぞれ違う立場で関わっている3人。推し活という仕組みを仕掛ける側にいる人間、そこに沼っている人間、そして、その沼から抜けて別の活動へと移った人間。
推し活は現代の宗教なのか
すごいフレーズだよねw
この本には「物語」という言葉よく登場する。
いつからなのかはわからないけど、現代の日本のアイドル文化には、「物語」は欠かせないものになっている。オーディション番組から始まり、デビューまで追いかけていく物語とか、アイドルの成長物語とか。グループ愛とか。などなど・・・。
正直、歌やダンスの実力より、物語のほうが魅力的だったりする。
そして、世の中には、常に物語を作る側の人間がいて、それを信じる人間がいる。
この小説でも、国見という、久保田がいるアイドルプロジェクトの中心人物がいるのだけど、まさに彼は人間や社会の特徴をよく理解していて、アイドルたちの「物語」をつくり、コントロールする側の人間。それ以外のメインの登場人物はほとんどコントロールされる側の人間だった。
ところで、昔は多くの人は宗教を信仰し、世界が宗教を中心にまわっていた時代があった。
もちろん今も宗教はあるし、多くの人は宗教を信じているけれど、昔のほうが宗教が世界の中心にあった。
そこから科学が発達して、奇跡と思われていたようなことにちゃんと原因があることが証明されるようになった。
そして、その情報がテレビやインターネットなどで、広い範囲で多くの人に届くようになった。
だから、昔ほど神の力は強くなくなった。
でも、この本を聞いていると、確かに神の力が昔ほど強くはなくても、人間が何かを信じて、依存する現象そのものは全然変わっていないように思う。
神々には物語があり、それによって救われる人々の物語があり、アイドルにも泥臭い物語があり、魅力的な物語には、多くの人は共感し、救われている。神や人じゃなくて、お金や物もその対象になることがある。
対象が何であれ、根本的にはその構造は変わらない。
昔からずっと、この世界は物語をつくって、人をコントロールする人間と、その物語を信じてコントロールされる人間にわかれているらしい。
何かを信じる本当の理由
1番思ったのことは、久保田、澄香、絢子の3人はすごく似ていたということ。
久保田は仕事、澄香は推し活に、絢子は社会活動にそれぞれ強く執着しているのが共通点で、その執着の奥にあるものも似ているように見えた。
それは、孤独だったり、生きづらさだったり、自分の居場所を求める気持ちだったり。
久保田は離婚していて、娘との接点も月に一度のビデオ通話だけ。だから仕事で必要とされることに強く執着していく。
澄香は人間関係がうまくいかない中で推し活に出会う。そして、そのコミュニティの中で居場所を見つけていく。
絢子もまた、推しの死をきっかけに、別の価値観に目覚め、別のコミュニティにのめり込む。
それぞれ形は違うけれど、何かに所属したいという気持ちや、孤独でいたくないという気持ちは共通している。
あと、印象的だったシーンがあって、澄香が友達に、推しの動画を再生してほしいと頼む場面。
「いいねを押してほしい。できれば最後まで見てほしい。そしてスクリーンショットも送ってほしい。」
いいねと最後まで見てほしいというのは、アルゴリズムに影響するから、推しに貢献をするため。
ただ、スクショの理由は、それをコミュニティの人たちに見せたいからお願いしているもの。
自分は自由に使えるお金が少ない。だから、お金以外の形でちゃんと貢献していることを示したい。
そこにあるのは推し活そのものというよりも、人の輪から外れたくない気持ち。
仲間外れになりたくない。孤独でいたくない。
澄香、久保田、絢子の行動の動機は、共通して意外と、とても個人的な感情からくるものだった。
結局、信じたい物語を信じている
ちょうどこの本を聞いていた時に、母からLINEが来た。
母はマイケルの映画を観に行っていて、その日は電車が遅れたりして、かなりギリギリだったらしい。
その時に、自分が信じている考え方というか祈りのようなことをしたらしく、結果的に映画に間に合った。
母からよくネット上で誰かが話しているちょっといい話とか、自己啓発系のショート動画がよく送られるし、ちょっとでもネガティブなことを言うと、それは引き寄せるから言っちゃダメなどと怒られる。そこに興味関心を示さない私や兄弟なので、今回も映画に間に合ったことに対して、
「それを実行したから、うまくいった!」というような内容のLINEが送られてきたのだった。
ちなみに、うまくいかないときの母はちゃんとネガティブですw
私はそのLINEを見て、なんだか笑ってしまった。いや、物事がうまくいかないと思うよりは、うまくいくと思って取り組んだほうがいいだろうけどさ。タイミング的に、さすがにおもしろかった。
そして、いいか悪いかは別として、人って本当に自分が信じている物語を通して世界を見るんだなと思った。
『マトリックス』の青い薬と赤い薬
ただ、わたしが、母のLINEに反応してしまう理由に、おそらく自分自身にも原因があると思う。
わたしは昔、宗教で働いていたことがあるし、宗教を信仰していたこともある。ネットワークビジネスにハマったこともあり、教祖みたいな人のコミュニティにも所属したことがあるw(こうして文字にすると、やばそうw)
前提、そのすべてを否定する気持ちは一切ありません!!!
失敗だったなと思うこともあるが、出会えてよかった人々、経験してよかったことがたくさんある。感謝していることもたくさんある。
ただ、なんだろう。
そういう経験を通して、わたしは特定の思想が正しいと思うことに抵抗を持つようになった。
思想を持つことが悪いことだと思っているわけではない。実際、推し活をしている人も、宗教じゃなくても何かを信じて活動している人は生き生きしていることが多いし、楽しそうな人が多い。そして、もしかしたらそれは、世界にとっていいことかもしれない。
この小説の中でも、澄香は推し活によって輝き始めた。
ただ、この小説を読んで、わたしの脳裏にはどうしても、『マトリックス』が浮かぶ。
青い薬を飲むか。赤い薬を飲むか。
真実を知ることなく仮想世界で幸せに生きるか。残酷な真実を知るか。
たぶん、青い薬を飲んだほうが幸せだけど、わたしは赤い薬を飲んでしまうだろうと思う。
その理由は、本当に自分でもよくわからない。わからないけど、とにかく何かの思想に依存している状態が嫌。しかも、これが仮想世界と言われたら真実を知りたいと思ってしまう。
思想を持たないことだって1つの思想だから、結局、人間は完全に思想から自由になるのは不可能だけど、自分が何かに強くとらわれていることに気づくと、拒絶反応が出る。
完全に自由になれないのに、特定の思想を正義としている状態に気づくと、自分の頭で考えてない気がして、すごくモヤモヤしてしまう。これは、自分の本音? それともここに誘導されただけ? と。
これは正義の話ではなく、自分がそう反応してしまうという話なんだよね。
そして、こんなふうに葛藤しているが、本当はこんなことを考えることに意味がないのはわかっているw
まとめ
ここで「まとめ」と書いても、全然まとまらないだろうけどw
この小説は推し活についての話というより、人は常に何かを信じずにいられないという話だと思った。
そして、それを信じ続けられる本当の理由は、意外と大義よりも、孤独になりたくないとか、誰かに理解してもらいたいというとてもパーソナルな理由である。
そして、それを利用して、物語を作る人たちがいて、それを信じる人たちがいる。
宗教も、推し活も、社会も、お金も、ある意味ではすべて物語で、その物語を信じることで、人はつながり、居場所を見つける。
それが悪いことではないが、その仕組みを知ってしまうと、コントロールされたくないと思うし、一方では、コントロールされないために、コントロールする側に回りたいかと言われると、それもなんだかなーと思ってしまう。
ちなみに、ここまで書いておきながらなんだけど、この本を読み終わった直後、私はスターウォーズのシールがほしくて、ビックリマンチョコを探しにコンビニに入っていったのだったw
人間って、所詮そういうものかもしれないw
最後まで読んでくれてありがとう。



